年明けはおとなしくStar71で撮っていたが、春の空で撮るものがなくなったのでC11を持ち出したところ、大きな筒は撮れるものが違って面白く急にC11が主力となる。ところが、夏にC11を載せているATLUXが故障して戦列を離れる。それ以降はStar71やSigma180mmF2.8によるナローバンド撮影などに手を出していた。振り返ってみるとやはり赤い星雲ばかりだ。
Hα-RGB合成によるアルニタク付近
オリオン座の三ツ星の左端アルニタク近傍のHα線による単色画像に、1年前の色データを乗せてカラー化してみた。
馬頭星雲のエネルギー源は写野右寄りに見える輝星(σ Ori、O型)だそうだが、そこから馬頭星雲あたりまで伸びる多数の筋模様は何故できるのだろう。σ Ori からの恒星風によるものかと思ったが、 σ Ori を中心とした放射状ではなく概ね平行だし。あと、馬頭星雲近傍のHα強度が高い領域、これも σ Ori からの恒星風による衝撃波面なのかなぁと思うが、 σ Ori を中心とした円形ではない。このあたり簡単に調べてみたが、よく分からなかった。(2022/11/1追記 恒星風とか衝撃波面ではなくて、左側の暗黒星雲の光蒸発だろうな。円弧状でない理由は相変わらず不明だが。)
Hα:2020/11/17-12/10, SWAT350 + Star71II (350mm F4.9) + ASI1600MM-cool, Baader Hα(7nm), 2min × 156subs ≒ 5h、兵庫県西部。RGBは2020/1/30のデータを流用。やりたいことに対して露出時間が全く不足しているが、あまりノイズ処理する気もなく。観賞用というよりは「ガスの流れが見える」とかそういう側の写真だ。どうも根本的に「綺麗な絵を作ろう」という意志がない。「(細かいものや淡いものなど)本来見えないものをもっと見たい」というのが根源で、その前提で「まあ見られる絵」を目指すから基本的にノイズが多いし、色はそもそもよく分からんが突き詰める気もない、みたいな感じだ。
画像処理のメモ書き。Starnetを使ったL-RGB合成では、Starnetで星雲のみにしてLRGB合成した画像に、普通にLRGB合成した画像の星を乗せる感じ。非線形化はMaskedStretchのデフォルト設定でいい。ノイズ低減処理はなし。
超新星残骸 Simeis147
おうし座の超新星残骸。おうし座β星(ぎょしゃ座の五角形の星でもある)のすぐ東に位置する。3000光年の彼方にある直径140光年のガス球で、10万年前の超新星爆発の名残である。この写真だと右向きのマンボウっぽく見える。
この天体、視直径3°とそこそこ大きいがとにかく淡い。肉眼で全く見えないのは当然として、21世紀のデジタル機材ですらその姿を捉えるのに苦労する。普通、天体を導入する際にカメラの感度設定を最高にして10秒ほど露光し対象を直接確認するというテクニックを多用するのだが、Simeis147は10秒程度だと影も形も見えず、仕方なく周囲の星の配列を見ながら狙いをつけることになる。間違いなく今まで撮った天体の中で最も淡い。
共通:SWAT350, sub 1min
Hα:Sigma 180mmF2.8 + ASI1600MM-cool、1081subs、2020/10/24-11/13、兵庫県西部
RGB:Star71II (350mm F4.9) + EOS6Dmod、48subs、2020/11/15、岡山県東部
Hαの輝度に色を乗せる手法(Hα-RGB合成)を使っているが、RGBを撮るときに少し狙いを外した。そのため画面の上部1割くらいがモノクロになっているのだが、言われるまで気づかない人がほとんどだと思うのでこれで良しとする。
総露出時間は19h弱に及ぶ。標準的な撮影ペースは一晩あたり2天体だが、この天体については9夜もかけた。それでもまだ十分とは言い難いが、まぁもういいかな、と言うか、正直飽きたので…。画像処理が難しくてどうにもノイズが多く、2020/11/28に再処理したが少しはましになっただろうか。
魔女の横顔星雲
オリオン座の右下の1等星リゲル、そのすぐ西(右)にある星雲である。所属星座はオリオン座ではなくて隣のエリダヌス座。星雲の形が魔女の横顔に見えるらしいが、一体どの辺が魔女の横顔なのか未だによく分からない。むしろ、イタチ的な小動物が左に向かって襲い掛かっているような感じだ。
青白い星雲はまあ反射星雲と相場が決まっている。星雲は大きく三種類、
と分けられるが、この星雲はまず光っているから1.か2.で、次に赤 or 緑ではないから 1.が final answer となる。ではこの反射星雲の光源はというと東隣のリゲルで、二つ下のオリオン座の写真を見るとこの星雲とリゲルの位置関係がよく分かる。この写真の左端すこし下寄りの位置がうっすら青白く明るいのはリゲルからの光芒である。
2020/11/22撮影、岡山県北東部、SWAT350 + Star71II (350mm F4.9) + EOS6Dmod、2min × 64subs = 2h08m。新規開拓の撮影地にて。標高1100m、気温3℃、山々を渡る風が一晩中ゴーゴー言っている夜だった。そのため3時間ほど露光したうちの1時間分は星像が飛んでいて使えず、その後に撮ったかもめ星雲に至っては星が飛んだコマばかりで画像処理を諦めたほど。短焦点システムでこれだから、C11だと本当に成果ゼロだっただろう。
オリオン座
オリオン座というのは派手なところだ。まずもって輝星が多いし、星雲もたくさんある。この写真に写っている星雲を大きな順に並べるとざっと下記のとおり。
このようにオリオン座が派手なのには理由があって、オリオン座の中央部にある水素分子が集まった領域(オリオン座分子雲)で活発な星形成が行われているからだ。オリオン座を構成する多数の青白い輝星はオリオン座分子雲で生まれた兄弟星であり、普通の星座が単に近くに見えているだけの互いに無関係な星で構成されるのとは対照的である。また、これらの青白い輝星が周囲のガスを加熱したり照らし出したりすることで、多様な星雲の姿が描き出されるのである。
2020/11/15撮影、岡山県東部、50mmF1.4(@F3.2) + EOS6Dmod + SWAT350。これでも露出を1時間強かけているが全然不足で、拡大してみるとちぎり絵みたいだ。星像をシャープにするためにF1.4のレンズをF3.2まで絞って光量の8割を捨てているのも効いているだろう。もっと真面目に撮ってもいいのだが、同じ時間をかけるならどうしても個々の星雲のクローズアップを志向してしまうので、たぶん撮り直さないだろうな。
はくちょう座γ星付近
はくちょう座の真ん中にある輝星(γCyg)の周辺に分布する大型の散光星雲である。
恒星の命名法には何通りかある。よく知られているのは固有名で、小中学校でも習うベガ・アルタイル・ベテルギウス、等々。次によく使うのがバイエル名で、大雑把には星座ごとに明るさ順で α・β・γ・・・と名付ける。明るさ順なので一般に知られているような明るい恒星はだいたい α で、例えばベガは こと座α となる。この写真の中央左寄りの輝星(固有名サドル Sadr)はバイエル名で はくちょう座γ星(γCyg)だから、はくちょう座(Cygnus)の中で3番目に明るい星ということだ。
と、ここで話が終わればシンプルだが、そうは問屋が卸さない。実は γCyg は はくちょう座で2番目に明るい星である。バイエル名が決められた大昔は現代のように正確に測光できなかったため、明るさの順とバイエル名がズレているのだ。これは他の星座でもよくある話で、このあたり大昔からの学問だなぁという感じがする。詳細はWikipediaの記事をご参照。
この星雲の写真を見ると、中高生の頃に一緒に星を撮りに行っていた友人がこれを撮っていたのを思い出す。この星雲は肉眼ではほぼ見えず、星雲・星団の観望の本には載っていない。そのため、友人の写真を見て「えらくマニアックなもの撮るな」と思った記憶があるが、天体写真の対象としては比較的大きくて明るいのでむしろメジャーと言える。
2020/9/20撮影、岡山県北西部、Star71II + EOS6Dmod + SWAT350、露出1h20m。ここ最近、大きい方の機材が不調なため、小さい方のシステムによる撮影が続いている。そのため、大型の赤い星雲でHPが埋まって面白くない。大きい方が使えれば、右下のクラゲみたいな星雲(NGC6888)を撮りたいところだが…。
ハート星雲
ハート形がかわいい散光星雲、味気ない名前ではIC1805。距離7500光年。
秋の北天には夏の空から続く天の川が流れているが、その道中には概ね各星座にひとつくらい大型の散光星雲が分布している。このハート星雲もその一つで、カシオペア座とペルセウス座の境界近くに位置する。
ハートのほぼ中央には小さな星の集まりが見えるが、これはMel. 15と名付けられた散開星団である。この星団は太陽の50倍という極めて重く、青く、若い恒星を含んでおり、ここからの紫外線が周囲の水素ガスを励起することで星雲が赤く光っている。
Hα-RGB合成で、自宅からじっくり撮ったHαの輝度に、山でサラッと撮った色を乗せてみた。赤道儀がSWAT350なのは共通で、Hαは2020/9/13-15、Sigma 180mmF2.8 + ASI1600MMで6h弱、RGBは2020/9/21、Star71II(fl=350mm) + EOS6Dmodで1h強。Hα-RGB合成だと星雲の輝度が上がるので色がピンクっぽくなるのだが、まあハート星雲だし良いか。星雲自体の写りはとても良く、初めての試みの割には十分に合格点と思っている。細かく見ていくと、そもそもレンズが芯を食ってないとか、RGBのフラット補正が雑とか、例によっていろいろありますけどね。
網状星雲 全景
はくちょう座の超新星残骸、距離約2400光年。
重量級の星がその一生を終えるとき等に起きる大爆発を超新星爆発という。突然ある恒星が数日~数週間にわたって銀河系全体に匹敵するほどに明るくなるのだが、その爆発で吹き飛ばされた恒星の外層のガスが超新星残骸(supernova remnant)である。この網状星雲の元となった超新星爆発は1~2万年前で、それ以来このガス球は拡大し続けて今では直径130光年に至る。そして、いずれはこの星雲もまた重力で集まって次世代の恒星の元となる。人間界よりは時間スパンは長いながら、天界も生死に満ち溢れたダイナミックな世界だ。かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
この星雲、ガスの球殻を見ているので全景としては概ね円形だが、特に上下には明るいフィラメントがある。この下側のフィラメントを拡大して左に回したのが2014/10撮影の 網状星雲(西) の写真になる。拡大だと細かい構造が「網状」に見えて面白いが、全景は新星残骸らしく丸い姿が捉えられてまた面白い。
2020/8/15撮影、岡山県東部、SWAT350 + Star71II(fl=350mm) + EOS6Dmod、総露出時間3.5h、Astronomik UHCフィルタ使用。このUHC(Ultra High Contrast)フィルタは酸素の青や水素の赤といった天体からの光(輝線)のみを選択的に通すので、星雲のコントラストを大幅に上げることができる。おかげで星雲の概観を捉えるのは簡単だったが、淡い部分を描写するにはまだまだ露出不足のようだ。→2022/10/27再処理、だいぶ良くなった。単に当時の画像処理スキルが不足だっただけか。
亜鈴状星雲 M27
夏の天の川の中、こぎつね座にある大型の惑星状星雲である。その形から通称「亜鈴状星雲」と呼ばれる。
この惑星状星雲というカテゴリーの天体はその名に反して惑星とは全くの別物で、そもそも我が太陽系のメンバーですらない。惑星が太陽の取り巻きであるのに対し、惑星状星雲は遠く離れた別の恒星の成れの果てである。これを望遠鏡で眼視観察すると小さな丸い姿が見えて惑星っぽいと言えなくもないが、写真に撮ってしまうと全く惑星っぽくない。
惑星状星雲では、軽量級の恒星がその末期に放出した外層のガスが中心星からの紫外線により励起されて輝いている。この特徴的な緑色は恒星内部の核融合で生み出された酸素原子の輝線である。いま我々が呼吸してる酸素も、元を辿ればこのように恒星の核反応から来たものである。
2020/8/14撮影、岡山県北西部、ATLUX + C11(fl=2000mm) + EOS6Dmod、20s × 82枚 ≒ 30min。この画像、解像度を上げるためにラッキーイメージングという手法を(中途半端に)使っている。一般的なDeep Skyの天体写真は数分間の露出時間の画像を複数枚平均化しているが、この画像では一枚あたり露出時間を20sとかなり短縮し、さらに高解像度の画像のみを選別して恒星のみに適用している。こうすることで大気の揺らぎ(シーイング)の影響を幾分緩和できて解像度が上げられるのだが、その代償としてザラザラした絵になりやすい。先日のM16で判明した赤道儀の不調のため露出を切り詰めざるを得なかったので、これを機にラッキーイメージングの実験をやってみたのだが、解像度の点からは合格、SN比(ノイズ)の点からは絶対的に露出不足、といったところ。
わし星雲 M16
いて座の散光星雲、と思ってたらその北隣のへび座だった。いて座近傍は我が銀河系の中心方向で、大型の星雲・星団が多数密集している領域。その星雲・星団をたどるにあたり、私はいて座の南斗六星の端の4等星(μ Sgr)を目印にしている。μ星から南に行けばM20、その先にM8、西はM22、北はM17、その先にこのM16、といった具合である。それがいつものルートなので、道の途中でいつの間にか星座の境界を越えてへび座に入っていることに気付いていなかった。
この星雲、その形から日本語通称「わし星雲」だが、冬の空にも別の「わし星雲」があり、いずれも赤い星雲で紛らわしい。なので、本HPでは冬の方は「かもめ星雲」とした。
赤い星雲は星形成領域。この星雲には赤い散光星雲の中にいくつか暗黒星雲が見えるが、特に中心にある帯状の暗黒星雲は「創造の柱」と呼ばれ、その先端に原始星が隠されている。この構造についてはハッブル宇宙望遠鏡の写真が有名で、私の写真との差は歴然だが、機材コストが十万倍違うにしてはこちらも健闘してると言いたいなぁ。なお、ハッブルの写真の色がおかしいのはおかしな撮り方をしているからで、肉眼では濃い赤に見える水素の輝線を緑に割り当ててカラー化した画像(通称ハッブルパレット)だからである。
2020/6/21撮影、兵庫県北部、ATLUX + C11(fl=2000mm) + EOS6Dmod、3min × 65枚 = 3h15min @ISO3200。どうも赤経側(写真左右方向)にガイドエラーがあり、赤道儀の命ともいえる赤経の駆動系に異常がある感じがする。もしウォームギアに傷が入ってるとするとかなり面倒で、対処法としてはウォームギアを赤経・赤緯で入れ替えるくらいしか見えないところ。もう20年も使ってるしなぁ・・・
猫の手星雲
さそり座の散光星雲。日本からでは南中高度が20°ほどと低く、南天の条件が良くないと撮りにくいため今まで撮ったことはなかった。ファインダーでは見えないが、さそりの毒針のそばという分かりやすい場所にあるため導入は比較的簡単である。案外と大きな星雲で、C11だと写野いっぱいに入る。
その特徴的な形から日本語では 出目金星雲、英語だと Cat's paw(猫の手)星雲と呼ばれる。個人的にはCat's pawの方が面白いネーミングだと思う。
2020/4/30撮影、兵庫県北部ATLUX + C11(fl=2000mm) + EOS6Dmod。2min × 66枚 = 2h12min @ISO6400。写真として点数をつけるなら40点で、ガイドエラーあり、悪シーイング、ノイズ多い、など文句がいくらでも出る。しかし、あまり撮る機会がないCat's pawを撮れただけでもまあいいか、とも思う。
画像処理がどうも納得いかなくて、やり直してみた。真面目に教本を読んでからやってみたら、まだ少しはましになった気がする。しかし、基本的に美的センスというものがないので、師匠のY君のレベルに達することはないだろうな、とも思う。
球状星団 M5
へび座の球状星団。北天の球状星団三選を挙げれば、りょうけん座のM3、ヘラクレス座のM13、そしてこのM5。いずれも春から夏にかけての夜空に分布するため、球状星団と言えば初夏のイメージが強い。球状星団は好き嫌いが分かれる天体で、「どれも一緒でつまらん」と言う人がいれば、「球状星団ごとの個性がたまらん」というマニアックな人もいる。私は個性がどうこうはほぼ興味がないが、数万光年先の数十万個の星の群れの規模感、謎に包まれた形成過程、そしてシンプルにその美しさから、そこそこ好きな派である。
ファインダーでM5を導入する時は、へび座5番星(5等星)を探すと、そのそばに「周辺がぼやけた星」としてM5が見える。この写真で左下(南東)に写っているのがへび座5番星である。5等星といえば肉眼では暗夜でも見えづらくなってくるくらいの明るさだが、それがこの明るさで写るあたり望遠鏡ってのは偉いもんだな、と思う。
2020/4/29撮影、兵庫県北部、ATLUX + C11(fl=2000mm) + EOS6Dmod、45min。本命のCat's pawが昇るまでの肩慣らしなので、露出が少なく極めてノイジー。画像処理を頑張ればもう少しましにはなるだろうが、本気で撮ってない素材を本気で画像処理するのもちぐはぐなので、それはしない。が、まあ見られる写真にはなったので、ここには上げておくことにする。
上弦の2日前
機材をセットアップして月が沈むのを待っている間に、暇つぶしで撮った一枚。これが意外とよかったのでアップロードした。普段は太陽系外のものしか撮らないので新鮮。
2020/4/29撮影、兵庫県北部、ATLUX + C11(Starizona Reducer Corrector LF, fl=2000mm) + EOS6Dmod。一発撮りの 1/25s@ISO200で、Deconvolutionで画像復元し明るい部分を焼き込んだけ。ごく適当にやっただけなのに、気持ち良い写真になった。
月や惑星の撮影手法といえば、2000年頃からは動画を撮って高画質フレームを自動選別しスタックするのが主流。この写真のような一発撮りはシャッターによるブレが大きく、シーイングも運次第になるので「最良の」方法ではない。昔話だが、中高生の頃はシャッターのブレを避けるために筒先開閉という方法を使っていた。名前は大仰だがやることは原始的で、要は人間シャッターである。黒く塗ったうちわで望遠鏡の筒先を覆っておき、カメラのシャッターを開き、ブレが治まった頃におもむろにうちわを振って露光、そしてシャッターを閉じる。時は流れて20年後、今では何も気にせずシャッターを切ってこの写真が撮れる。カメラの低振動化や望遠鏡の大型化などが効いているのだろうが、月の全景を撮るなら案外これが最良の方法かもしれない。
三裂星雲 M20
いて座の散光星雲。いて座といえば夏の星座の代表格で、わが銀河系の中心方向に位置し多数の星雲・星団を擁する、天文屋が愛してやまない領域である。つい最近まで「春は撮るものがない」とか言ってたが、いつの間にやら明け方の空にいて座が昇る季節になってしまった。
赤い輝線星雲と青い反射星雲のコントラストが素晴らしく、手前にある暗黒星雲のせいで3つに割れているように見えるため「三裂星雲」と呼ばれる。というのがよくある説明なのだが、この天体どう見ても4つに割れていると思う。この感想は僕に限ったものではないらしく、Wikipediaの記事にも「この名前は写真を初めて見た人を惑わす」との記載がある。
2020/4/26撮影、兵庫県中部、ATLUX + C11(Starizona Reducer Corrector LF, fl=2000mm) + EOS6Dmod、3min×22枚=1h06m。風が強くて約半分のコマがボツとなったため露出不足、なので画像処理も(いつものように)いいかげん。技術的には色々試した事が全てうまくいったが、これは珍事と言ってよい。
黒眼銀河 M64
かみのけ座の銀河。中央に大きな暗黒帯があり、これが黒目のように見えるため黒眼銀河と呼ばれる。「バックベアードに似ている」という人もいるが、そんなでもないと思う。この銀河は10億年以上前に伴銀河と衝突し、合体して今の形になったらしい。ハッブル宇宙望遠鏡が撮った画像などでは、その衝突によるとみられる星形成領域が多数みられる。
おとめ座・かみのけ座あたりは春の夜で天頂付近に昇る領域だが、短焦点の光学系だといよいよ撮る対象がない。このへんは銀河ばかりで、そして銀河は小さいのだ。M64も銀河としては大きい方だが、それでも長径わずか7分角に過ぎず、焦点距離1000mm(標準レンズの20倍)を超える光学系でなければ勝負にならない。2000万光年の彼方を捉えるのも楽ではないのだ。
2020/3/21撮影、兵庫県中部、ATLUX + C11(Starizona Reducer Corrector LF, fl=2000mm) + EOS6Dmod、5min×27枚=2h15m。この写真も同日のM81と同様にガイドやピントの問題があるが、大口径ならではの有無を言わさない迫力もまた持っている。重さや煩雑さがネックでC11から遠ざかっていたが、一度やってみただけで「またやってみるか」と思わせてくれる魅力がある。
M81
おおぐま座にある大型の銀河。「大型」と言っても長径20分角=1/3°で、これは腕を伸ばした先に見える人差し指の幅の1/3に過ぎない。この銀河、小口径の望遠鏡で見ても楕円の形が分かるだけだが、写真に撮ると比較的簡単に渦巻が写る。こういった「見えないものが見える」あたりに天体写真というものの面白みを感じて、ずっと続けているような気がする。
M81と言えば、高校の頃に買ったパロマー天文台の天体写真集を思い出す。これは月・惑星から銀河までカバーした写真集だが、その中で最も美しいと感じたのがM81だった。均整の取れた渦巻き銀河。自分でもこういう写真を撮るようになって久しいが、やはり一番美しい銀河だと思う。
2020/3/20撮影、兵庫県中部、ATLUX + C11(Starizona Reducer Corrector LF) + EOS6Dmod、5min×28枚=2h20m。C11を出したのは3年ぶりだが、意外とやれた。ただし色々と課題があり、素材として満足からは程遠かったため画像処理も気合が入らずかなり雑である。まず、ガイド系の制御ゲインが高過ぎて、シーイング(大気の揺らぎ)を追いかけて解像度を下げてしまっている。次に鏡筒温度低下による経時的なピント外れ。最後に昔からの課題の周辺像の非対称崩れ。やはり一筋縄ではいかないか。
おとめ座銀河団
春の夜空は撮る対象がない。正確に言うと、短焦点の鏡筒で撮って見栄えのする天体が少ない。
我らが太陽系は銀河系の円盤の面内に位置する。その円盤を地球から見上げた姿が天の川なので、天の川は全天にぐるり一周繋がっている。北半球における夏や冬の夜空は銀河系の面内の方向なので、上空を天の川が横切ることになり、銀河系内の大型の星雲・星団が多い。これに対して春の夜空は銀河系の面と直交する方向となるため、銀河系内の天体には乏しいが、銀河系外に位置する別の銀河が見えやすいという側面を持つ。
この写真はそういった遠くの銀河の集団を写したもので、ここに写っている「一見して星ではない天体」は全て銀河である。円形・楕円形・渦巻。右下の渦巻なんかかわいい。その数ざっと40個、その一つ一つが数千億個の恒星の集団である。
銀河は小さい。正確には、とても大きいのだが(直径10万光年)、ただただ遥かに遠いので(距離5000万光年)、見かけとして小さい。最近いくつか写真をアップロードしている赤い散光星雲はわが銀河系のごく一部だが、これに対して同じ機材で撮ったこの写真に写る多数の銀河のひとつひとつはわが銀河系と同規模の天体である。このあたりに宇宙の奥深さを感じる。
2020/2/24撮影、岡山県東部、SWAT350 + Star71II + EOS6Dmod、120s×88枚=2h56m。冬の天体群が沈んで行って春の夜空となってしまい、「あー撮るものなくなったな…。じゃあこれでも撮るか」と適当に仕掛けて就寝。撤収して帰宅した後も画像処理するのを2週間忘れており、処理自体もかなり雑、という写真である。
Seagull Nebula IC2177
冬の天の川、いっかくじゅう座にある大型の赤い星雲(HII領域)である。見た目から通称わし星雲なのだが、夏の空にも通称「わし星雲」と呼ばれる星雲(M16)があり紛らわしい。「わし星雲」と言われたときにどうもイメージが一貫しないなぁと長いこと思っていたが、「わし星雲」が2つあることに気付いたのは案外と最近である。IC2177は英語ではSeagull Nebula(かもめ星雲)なので、ここではこちらで表記することにしよう。
2020/1/30撮影、岡山県東部、SWAT350 + Star71II + EOS6Dmod。60s×30枚。初めて撮ったが、まぁ簡単に写ること。雪が降ったり雲が通ったりで、総露出1.5時間のうち使えたのが30分ぶんだけ。なのでかなりノイズが多いものの絵としては悪くない。次のシーズンにじっくり時間かけて撮り直すかな。