基本的には自分用の備忘録。下線部は未検証とか課題ありとか。随時、書き足したり書き換えたりします。
Check list for DSO imaging by Dobsonian & EQ platform
まだ本当にメモ書き。
組み立て
セッティング
撮影開始まで
定期確認
撤収
一次処理における諸問題の原因と対策
EOS 6Dのバイアスが一定していないことは確実で、これが諸悪の根源のような気がしてきた。積分時間を変えてダークを取っても平均値がほぼ一定になる。すなわち「平均を揃えるような補正」がかかっていると見られ、このため純粋な暗電流成分のみを取り出すことが難しい。(ランダム成分の増加量から暗電流成分を推定することはできるが、精度が怪しい。)したがって、ひとまずはダーク取得時に温度・時間をできるだけライトフレームと合わせるのが現実解と思われる。
【キャリブレーション全般】
問題:キャリブレーション精度の評価が困難
原因:単一のサブフレームではSNRが低いため。
対策:ライトのサブフレームを単純にスタックした画像(キャリブレーション・デベイヤー・アライメント全てなし。以下「単純スタックL画像」と呼ぶ)を用いてキャリブレーションの精度を評価する。
【ダーク減算】
問題:ダーク補正の過剰または不足 →最終画像での縞ノイズまたはSNR低下
原因:ライトフレームとダークフレームの撮像時のセンサ温度および/または積分時間の不一致。
対策:単純スタックL画像を用いて暗電流成分をスケーリングしたダークフレームを用いる。詳細は別記事に記載。
備考:バイアスの変動により正確にスケーリングできない場合あり。
問題:ダーク減算後のサブフレームの暗点 →最終画像でのSNR低下
原因:ダーク減算による負値の発生。根本原因はバイアスの変動と推定されるが不明。
対策:Output pedestalを与えてサブフレームで演算結果が正になることを保証する。
備考:SNRの高い単純スタックL画像ではダーク減算で負値が出なくても、サブフレーム(特に信号強度が低い場合)では暗点が出ていることがあるため要確認。
【フラット補正】
問題:フラット補正の過剰または不足 →最終画像での輝度分布異常
原因:バイアスの変動、または感度の非線形性と推定されるが不明。
対策:単純スタックL画像を用いてフラット補正後のバックグラウンドが平坦になるようフラット画像に定数を加減算する。
備考:上記対策は対症療法かつ人の判断に依存するので改良の余地あり。バイアス変動の影響を減らすため、フラットには高い信号量を与える方がいいような気がしてきた。
問題:フラット補正により生じる暗点 →最終画像での縞ノイズまたはSNR低下
原因:フラットフレーム上のホットピクセル。
対策:ライトフレームからの異常ピクセル除去。
備考:原理的にはフラットフレーム上のクールピクセルに起因するフラット補正後の輝点も生じうるが、これはホットピクセルと比較してごく少数、かつ異常ピクセル除去ではホット/クールともに除去するため分けて取り扱う必要なし。フラットフレームは露出時間の割に信号強度は高いので、異常ピクセル除去は必要だがフラットフレームのダーク減算までは不要と思われる。順を追っていけば本来はフラットフレームの異常ピクセル除去をすべきだが、どのみちライトフレームの異常ピクセル除去は行うので、実質的にフラットフレームの異常ピクセル除去は必要ないはず。
【アライメント】
問題:アライメントできない。
原因:ホットピクセルを恒星と誤認識する。
対策:ライトフレームからの異常ピクセル除去。
(2022/10/29)
ダークフレームのScaling
【背景】
センサの暗電流は温度の指数関数で増加するため、ライトフレームとダークフレームは温度と積分時間を一致させることが望ましい。しかし、特に非冷却カメラでは温度の不一致に起因してキャリブレーションが不正確となることがある。かかる場合でも、ダーク画像からバイアス画像を減算して暗電流成分のみを求め、これを定数倍してライトフレームから減算することで暗電流の寄与が最小となるようにキャリブレーションすることは可能である。この操作をscalingやoptimizeと呼び、例えば画像処理ソフトPixinsightで実装されている。
L = B + (d + s) × t
D = B + d' × t'
d' × t' = D - B
d × t = α × d' × t'
S = s × t = L - ( B + d × t ) = L - ( B + α × d' × t' ) = L - ( B + α × (D-B) )
where,
L:ライトフレーム
D:ダークフレーム
B:バイアスフレーム
d:単位時間あたり暗電流@ライトフレーム撮像時
s:単位時間当たり信号量
t:積分時間@ライトフレーム撮像時
d':単位時間あたり暗電流@ダークフレーム撮像時
t':積分時間@ダークフレーム撮像時
α:スケーリングファクタ
S:信号量=キャリブレート済みライトフレーム
【課題と対策】
通常、バイアスフレームとダークフレームは多数の画像をコンポジットしたマスターデータを用いるため十分なSN比があるが、これに対して(一枚ずつ処理される)ライトフレームは相対的にSN比が低い。このため特に露光量が少ない場合にスケーリングファクタの自動算出に失敗するケースがあるが、これは下記のように対処できる。
ここで要点となる3.と4.を式で表現すると下記のとおり。
3: α = (L - S - B) / (D-B)
4: D' = B + α × (D-B)
【検証】
2022/9/30撮影のNGC7293の画像を題材として、上段に単純スタック画像に対するキャリブレーションの効果、下段に最終的に得られる一次処理後の画像を示す。
上段左:ライトフレームをキャリブレーション・デベイヤー・アライメントいずれもせずにスタックしたもの。暗電流による輝点が目立つ。
上段中:左上画像からマスターダークを減算したもの。輝点はなくなるが暗点が増え、その位置は左上画像の輝点と一致する。要するにダーク補正が過剰となっている。
上段右:左上画像をoptimizeありでダーク減算したもの。輝点・暗点ともになくなった。optimizeの結果、スケーリングファクタ α=0.575 だったので、マスターダークの暗電流成分はライトフレームの概ね2倍だったことが分かる。
下段左:各ライトフレームをダーク補正せずにデベイヤー → アライメント → スタックしたもの。暗電流に起因する筋模様が出る。
下段中:各ライトフレームをマスターダークでダーク補正し、デベイヤー → アライメント → スタックしたもの。左下画像と同様の筋模様が出る。この筋模様は左下画像とは反転しているはずだが分かりにくい。
下段右:α=0.575でスケーリングした修正マスターダークを用いて各ライトフレームをダーク補正し、デベイヤー → アライメント → スタックしたもの。筋模様は完全に消える。
スケーリングファクタ α=0.575 は「ライトフレームよりもダークフレームの方がセンサ温度が約5℃高かった」ことを意味する。(Dark current doubling temperature = 6 K を仮定。なお積分時間はライト・ダークで同じ。) 今回の検証ではスケーリングファクタは上段の左・右の画像およびマスターのダーク・バイアスの4つの画像から3.の式をPixelMathで直接演算することで求めたが、この値はoptimizeありダーク減算の際にProcess Controlに表示される Dark scaling factors: k0 の値と(当然に)ほぼ一致するので、それを用いても構わない。
(2022/10/22)
次期撮像システムの基本思想
現状の主力である C11@F7.5 + 6D改 はFOV_dia=1.15deg, FOVpp=0.64"で高解像度狙いとして適切だが、カラーセンサゆえ感度の3/4を失っている。モノクロカメラに変えて C11@F6.3 + ASI1600MM-coolとすれば感度は上がるものの、FOVpp=0.44"とオーバーサンプリングにより低露光量での感度損、かつFOV_dia=0.68degとかなり写野が狭くなる。シーイング限界の分解能とFOV_dia≒1deg程度を確保したまま、信号量をできるだけ稼ぎたい。
まず、分解能を維持するため良シーイングでのFWHM=2"を3pxでサンプリングするとしてFOVpp≒0.7"にセットする。これは、近年の冷却CMOSカメラで一般的なピクセルピッチ3.8μmを採用するならばf≒1200mmに相当する。このときの写野は4/3判でFOV_dia=1deg、APS-C判ならFOV_dia=1.34degと必要十分となる。
次に口径は、移動観測での運用性から上限が定まる。f≒1200mmであれば鏡筒はニュートン式(または主焦点)となり、ドイツ式赤道儀ではD=300mm程度が上限で現状のC11と大差ないが、架台をEquatorial PlatformとするならばD=400mmが採用できて光量2倍となる。(ただし自動導入やリモート制御の可能性は捨てることになる。)このときf=1200mmに対してF3となり、これは主鏡F4に対しx0.75倍のレデューサ/コレクタの組み合わせで仕様上の無理がない。
まとめると、鏡筒はD=400mm F4ニュートンをレデューサ×0.75で合成F3、f=1200mm。これをpx=3.8umのセンサと組み合わせてFOVpp=0.65"、FOV_dia=1.0~1.3degを得て、これをEQ platformに搭載するという仕様。この結果、特に最低露出時間(スカイショットノイズが読出しノイズの数倍となるまでの露出時間)が大幅に短縮できてC11@F6.3 + ASI1600 比で1/4倍となり、またスカイショットノイズ支配域で同SNRとなる総露出時間もC11+ASI1600比で半分以下に短縮される。総重量は60~70kg程度と移動観測での最大限。このシステムの成立性の最大の鍵はEQ platformの追尾精度だが、これは ①先行事例で3min露出での撮影実績があること、②速写性向上により露出時間30秒程度でも十分実用になると予想されること、の2点より成立目途ありと評価している。
(2022/8/27)
オーバーサンプリングの効果を考慮したSN比
書きかけ、考え中。間違っているかもしれません。
単一の点光源からの光線がシーイングによる擾乱を受けた後に光学系に入射して結像し、これを撮像素子でサンプリングすることを考える。
D:口径、f:焦点距離、F:口径比=f/D
px:ピクセルサイズ、Nr:読出しノイズ
FOVpp:1ピクセルあたり写野
S:信号量、t:露光時間、N:ノイズ量
FWHM:点光源の像の半値全幅
現実のPSFは二次元のガウシアンに近いが、ここでは簡単のため各量の比例関係のみ考えて幅がFWHMの矩形窓関数とし、この領域について考える。
信号量は入口径の二乗と露光時間に比例する。S ∝ D^2・t
そして、この領域を (FWHM/FOVpp)^2 個の画素でサンプリングするから(高解像度狙いとして十分にオーバーサンプリングしていることを前提とする)、読出しノイズ支配となる露光量においてその領域でのノイズは N = Nr・√{(FWHM/FOVpp)^2} = Nr・FWHM/FOVpp
従ってSN比は SNR = S/N ∝ D^2・FOVpp・t / (Nr・FWHM) で、t、Nr、FWHMを所与と見れば SNR ∝ D^2・FOVpp
すなわち、ピクセル単位ではなく空間単位での解像度の最小単位で見た場合のSN比(仮に空間SNRと呼ぶ)は
・露光量が極めて少なく読出しノイズ支配域にある
・高解像度狙いで十分にオーバーサンプリングされている
という前提の下で D^2・FOVpp に比例する。
具体例1:口径2倍のとき・・・光量4倍だから、低照度域では空間SNRも4倍。
具体例2:焦点距離2倍のとき・・・同じ空域からの信号を4倍のピクセルで読みだすためノイズ2倍、ゆえに空間SNRは半分。
具体例3:口径・焦点距離ともに2倍のとき・・・前2例の重畳により空間SNRは2倍。
具体例4:ピクセルピッチ半分の場合・・・具体例2と同じ。
一方で、露光量が十分に多い場合はショットノイズ支配になるから、同じ領域における 空間SNR=√S ∝ D となる。すなわち、露光量が十分あるならFOVppは空間SNRに効かない。オーバーサンプリングによるSN比の悪化が多数ピクセルによる読出しに起因するため、との理解。空間SNR向上のためには低照度ほど(要求解像度を考慮した)FOVppの選定が重要となる。
低照度:空間SNR ∝ D^2・FOVpp
高照度:空間SNR ∝ D
(2022/6/1)
C11 + Starizona SCT Corrector LF メモ
仕様と実際
C11(D=280mm, f=2800mm, F10)をf=2000mm、F7.2に短縮する仕様だが、実際には撮影した星の離角から計算してf=2100mm、F7.5くらい。バックフォーカスは後端フランジ面から132mmとの仕様。(過去にBF=131mmの方が周辺像が改善した。本当にそうか怪しいなと思っていたが、再検証してもそうなる。)
収差について
撮影時チェックリスト
機械系の組み立て
電気系の組み立て
セッティング
撮影
定期確認
機材単体について
Celestron C11鏡筒
D=280mm, f=2800mm, F10。旧ATLUXとのセット品の白鏡筒、2000年購入。実測12kg。2013年ごろにヨシカワ光器さんでオーバーホール。その後に主鏡底部に自作ティルト調整機構を組み込んだが、標準搭載位置における赤緯方向に星像の非対称性がいくぶん残る(これはレデューサ起因の可能性もある、スケアリング調整中)。副鏡の光軸調整はBob's knobs。冷却用にLymax SCT Coolerを使っていたが、積極的に熱制御して解像度を上げるため冷却機構を組み込んだ(リアセル背面に6cmDCファン4個で公称合計64cfm、推定実流量約50cfm。鏡筒前方から吸気、Mauro Da Lio Baffuleで主鏡表面の温度境界層を薄く安定に維持、主鏡裏面バッフルで裏面の熱伝達率向上、リアセル背面から排気。High/Low2段階切替、Lowは抵抗15Ωで出力約30%=流量約65%。解像度向上量評価中)。フォーカスノブは外注製作した目盛つき、たしか副尺1目盛あたりボケ1”で設計したはず。赤道儀への搭載はロスマンディ規格ダブテイルプレート。Baaderファインダー台座2個あり、右はファインダ用で国際光器EF508(正立暗視野、スケール1°/div)、左はガイド鏡やら導入支援iPhoneやら。接眼部はSC3.3inから所謂シュミカセネジへの純正変換アダプターをケラレ防止のため切削加工して内径を拡大、またはBaader2インチアダプタ。その他の付属品はAstrozapフード、Fairpointバーティノフマスク、フラット板(半透明アクリル板を加工外注)など。
レデューサはStarziona社SCT Corrector LF(初代)、イメージサークルは35mm判をカバーする。バックフォーカスは3.3inネジ頭部から測って公称132mmだが、131mmの方が周辺像が改善した実績がある(が本当にそれが最善かは自信ない)。焦点距離は公称2020mmF7.2だが、何度測っても2100mmF7.5くらいの数字が出る。中心像は文句なしで、35mm判の周辺だと少々流れるくらいだが原因未確定。もうひとつのレデューサはStarizona SCT Corrector II、イメージサークルは公称27mmで微妙にAPS-Cをカバーしないくらい。バックフォーカス公称90.3mm、色々調整中。なおCelestron純正レデューサはさんざん試したが周辺像が不十分で使えない。
William Optics Star71II鏡筒
D=71mm, f=350mm, F4.9、2019年購入。品質管理に問題あり、最初に納品された品は検品しているとは思えないほどスケアリングが狂っており、非点収差もある感じで返品。7cmの屈折に15万円の値札をつけて「イメージングアポ」と名乗るならその程度は合わせておいて頂きたいものだが、高望みだろうか。二台目はスケアリングは合っていたが、特に輝星が「中心の高輝度部とハロ」のようにボテッと写り、このハロは写野周辺だと中央方向に出る。これはこの個体に特有という訳でもないようで、赤外線をカットしてもあまり変わらない。ただ、解像度自体はASI1600と組んでも十分あり、光量も35mm判の隅まで豊富。総じて「サブ機として気楽に撮るぶんには十分」といった感想。
伸縮式フードでコンパクト、総重量2kg強。フードが比較的長めだからか夜露はつきにくく、ついてもミニドライヤーですぐ飛ばせるのでヒータなしで運用している。蓋に組み込まれた透明バーティノフマスクは像が明るいので便利。ダブテイルバーは表がVixen規格、裏がアルカスイス規格という仕様で、カメラ取付状態ではかなり後方をくわえることになる。フォーカス機構はラック&ピニオン、デュアルスピードでしっかりしたつくり。フォーカス固定ネジがドローチューブ下方に突出する設計で邪魔、なので手持ちの短いローレットネジに換装。フォーカスノブに温度計がついているが使ったことはない。温度低下によるフォーカス誤差は、1時間ではほぼなし、2時間だと微妙。カメラ側とはM48で接続。回転装置内部にM48フィルタが入る。ファインダーがないのでCFRP板と蓄光テープで作ったオープンサイトを鏡筒バンド頂部に両面テープで張り付けているが、これでASI1600と組み合わせた画角長辺3degの導入でも十分。
SIGMA APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM
f=180mm、F2.8、仕様的にはD=64mm、2018年購入。Canon EFマウント。6Dと組み合わせた場合、絞り開放で隅でいくらかコマが出るくらいで、細かいことを言わなければ普通に開放で使える。が、ASI1600と組み合わせると写野中心でも明らかに星が三角に写る(これは通常要求される解像度に対して適切に設計・製造されているというべき)。
手振れ補正はOFFにすること。フォーカシングはStar71のバーティノフマスクを流用するか、ライブビューによる目視。特にASI1600と組むときはピントリングの操作が非常にシビアなので、何らかの補助ツールをつけたいところ。
Tamron SP 85mm F1.8 Di VC USD/Model F016E
f=85mm、F1.8、仕様的にはD=47mm、2021年中古で購入。Canon EFマウント。中央はF2.0でだいぶ良くなり、周辺はF2.5まではあまり変わらずF2.8で急に改善する感じ。なので常用F2.0としている。
Vixen ATLUX赤道儀
初代アトラクス(後期型)、1999年購入。単体重量22kg(ペリカンケース#1600に入れて30kg程度)、最大搭載モーメント荷重600kgf/cm(モーメントアーム30cmとして20kgf)、公称PM±4"。ウォームホイール240歯=ウォームギア1周6分間。K-astecさんによる駆動系改造済み、コントローラAGS-1sでASCOM経由でも運用可(星羊翁様作成E-ZEUS用ASCOMドライバ)。2020年頃に赤経ウォームギアを損傷したため天文ハウスTOMITAさんにてOHして赤経/赤緯のウォームギアを入れ替え、実測PM±6"。どうもオートガイドが安定しない感じ。ヘッド部はコスモ工房さんのロスマンディ規格アリ溝。C11にイメージングトレインを積んだ状態だと純正ウェイト2個がほぼシャフトの下端で赤経まわりのバランスがとれるが、予備としてコスモ工房さんの延長ウェイトシャフトあり。極軸合わせはPolemaster、アダプタは天文ハウスTOMITAさんより。
三脚は純正ジュラポール。各脚の伸縮はボルトによる上下二点止めだが、下側はネジ奥の硬質プラスチックの部品が3つとも噛み込んで割れているため分解・摘出しており遊んだ状態(まあ設計の問題)。
Unitec SWAT-350 V-spec赤道儀
2018年購入。公称で重量2.4kg、搭載重量15kgだが、搭載重量の定義が不明。後からV-spec化する改造をしており、公称PMがノーマル±5.5"の偏荷重時±4.5"に対してUnitecさん計測ではノーマル±4.5"の東荷重±3"とかなり良い。いつも東荷重で運用しており、Star71+ASI1600(FOVpp=2.3")で露出1分でPMが見えるかどうかくらい。一軸オートガイドするときはオートガイダのST4互換RJ12出力をSWAT-350のコントローラ入力(4極ミニプラグ)に変換する自作ケーブルを使う。
Meridian flipしたくないためフォーク式で運用。フォークはUnitecさんの純正アリミゾレール2本を組み合わせて角部をアルミ鋳物アングルで補強。赤緯軸はNovoflexパノラマプレートにアルカスイス規格クランプ取り付け。フォークアームにPolemasterアダプタを取り付け。Unitecゴニオ式ガイドマウントと組んだ状態で保管し通常は分解しない。電源はモバイルバッテリー(16800mAh、だいたい朝までもつが、一度だけ冬にもたなかった)から9Vステップアップケーブルを介して供給するか、DC12Vから直結供給(2.1mmDCプラグ)。三脚はサイロトンSCT-35。
GP改ガイドパック 赤道儀
1993年にGP赤道儀(手動)として購入。当時はED102Sと組んでいたが、最終的には赤緯体を外して1軸ガイドパックとした。駆動回路はPICマイコンによる自作で赤経モーターハウジングに組み込み。SWAT-350と同様に2.1mmDCプラグから9Vで駆動できる。
Canon EOS6D改 カメラ
発売2012年、35mm判(長辺36mm、短辺24mm、対角43mm)、px=6.5μm。2台体制。改造は瀬尾さん(SEO-SP4、2018年購入)とハヤタ・カメララボさん(HKIR、2021年購入)。Magic Lanternによるスタンドアローン運用、のためファームウェアver1.1.6。EFマウントのフランジバック44mm。電源はバッテリー(真冬でも3hはもつ)またはDCカプラからの給電。ファインダーがない鏡筒などと組み合わせる場合は、ホットシューカバーとCFRP板を接着した自作ファインダーを取り付ける。常用感度ISO3200、露出モードS(サイレント)。ライブビュー状態から撮影開始しないこと、迷光防止のため光学ファインダーは塞止すること。RAWファイル25MB。
ZWO ASI1600MM-cool カメラ
4/3判(長辺18mm、短辺12mm、対角22mm)、px=3.75μm、モノクロ。2016年購入。公称16bitだがデータは値が16DN毎に飛んでおり実質12bit。フランジバック6.5mm、接続はT2雄という変わった設計。常用-10℃。ゲイン設定は撮影目的次第。公表データではNread=3.6e-RMS@Gain0。FITファイル32MB。
システムと運用について
ATLUX系
C11+6Dの場合、レデューサはSratizona Reducer Corrector LF、写野長辺1deg、FOVpp0.67"だがベイヤー配列考慮すれば実質1"。イメージングトレインの接続は 3.29in/SC → SC/M57 → M57回転装置 → M57/2"スリーブ → M48延長筒 → Tリング で、2"スリーブへのM48延長筒の抜き差しでバックフォーカス調整。星像の非対称崩れの修正のためスケアリング調整中。ダブテイル下側にロスマンディ規格アリ溝を介してmini-BORG 60ED(f=350mm) または Artesky 32 mm Mini Guide Scope (f=130mm、見た目だけカーボン調で無駄に重い、異様に非点収差が出て星が十字に写るがガイド用なので無視)をぶら下げ、ガイドカメラとしてはLacerta M-GENかOrion SSAGを組み合わせる。ガイド鏡方式ではSub露出時間は標準1分。または、時々オフアキシスガイダー(TS OAG-9)を入れたりする。その場合ガイドカメラはLodestar X2。C11+ASI1600だとレデューサはSratizona SCT Corrector、写野長辺0.6deg=35arcmim、FOVpp=0.44"。こちらはまだあまり試してない。Baade2"スリーブ → Corrector → TS OAG9 → Altair Filter Drawer → Tリング → EFマウントアダプタ → T2メスメス → ASI1600。EFマウントアダプタ取り合いにしたため6D改とのL-RGBが容易にやれるはず。フィルタはBaaderのRGBと、目的に応じてBaader Clear, UV/IR cut, Hα(7nm), OIII(7nm), IDAS LPS-D1, NBZ, Astronomik UHCなど。
電源はハイブリッド車からのAC100V出力をDC12Vに落としてΦ2.1mmDCジャックで分配しているが、これがASI1600の横縞ノイズの原因になっている可能性があり検証中(オシロスコープで見た限りでは、ACアダプタ出力に乗っているノイズは商用電源と同等)。信号線の扱いはアリガタに貼り付けたUSBハブが文字通りハブとなり、極軸側へはPolemasterへ接続、接眼部側へはASI1600に接続しさらにカメラ背面のUSBポートからフィルタホイールとLodestarX2へ接続する。制御PCは片手サイズのGPD micro PCで、Windows10Pro搭載でiPhoneからWifi経由でリモートデスクトップ接続して遠隔監視できる。撮像制御ソフトAPT、オートガイドソフトPHD2。ただし6D改で撮影する場合はPCはPolemasterによる極軸合わせのみに使用する。
組立時の荷重は東が少し重く感じる程度で過剰に崩さない。赤緯まわりバランスがファインダーの重さで崩れるため、気になる場合はファインダーを外す。露対策は補正板が前面にあるため必須で、Kendrickヒータ(定格12V 3A)とAstrozap巻き付けフードを使用。フードは先端5cmほどカットして運搬中は鏡筒に巻き付ける。風に弱いため、強風時はフードを外す、東偏荷重を大きめにとる。2022/2/27に防風ネット(1mmメッシュ、2.5m × 2.0m)をテストしてみたが劇的に効く。温度順応は最低30分は冷却しないと分解能が出ないため、組み立てたらすぐに冷却ファンをHighで回す。温度順応の状態は焦点内外像でバッフルから立ち上る気流の影から判断する。撮影中も気温は継続的に下がっていくため、冷却ファンをLowで連続運転して温度順応を促進しつつ境界層を薄く安定に維持する。レボルビングは赤経or赤緯に振りながらライブビューで星の軌跡を写野と平行にする。光軸調整は運搬後は必須で、少しずれていることが多い(調整ネジ30°ぶんくらいか)。写野中心で合わせること。
対象の導入は正立暗視野ファインダーで、自動導入はほぼ使わず導入支援としてiPhoneのアプリ Sky Guide を用いる。対象の確認はカメラ感度最高で露出10sなどで試写。導入後、赤経を西に回してMeridian Flipする時刻の目安をつけておく。フォーカシングはバーティノフマスクかFWHMリアルタイム計測にて、写野隅2/3あたりの位置で。フォーカス完了後の経時的な主鏡の傾きを減らすため、必ず主鏡を押し上げる側(ノブ左回り、主鏡荷重で重い方向)でフォーカスする。アルミ鏡筒ゆえ温度低下によるフォーカスずれが顕著で、1時間で明らかにずれる事も多い。その際のリフォーカスは鏡間距離を離すので、フォーカスノブを一度大きく右に回してから左回りで追い込む。ガイドはLodestarX2によるオフアキシスの場合、銀緯が高い領域でもガイド星が見つからないということはないがいくらか探すことあり、Meridian Flip考慮すればやはりガイド鏡方式の方が遥かに気楽。オートガイドの設定は露出時間長め(標準4s)、Aggressiveness低め(標準50%)としてシーイングを追いかけないことを重視する。かつては赤緯のバックラッシュ2秒などを設定していたこともあったが、赤緯は基本的に一方向に流れるので最近は入れていない。ASI1600における撮影順序はRGBを先に撮ってその後にLの順、理由は①RGB揃えないと絵にならない、②温度順応して解像度が出るまでに時間がかかる、から。前述①の理由からR→G→B→R→G→B→・・・の撮影順とするため、制御ソフトAPTで撮影プランの Vertical plan をチェックする。RGBは統計処理のため各最低4枚は欲しい。RGBフィルタは同じ厚さでも微妙に焦点位置が違うが、RGBの解像度はかなり悪くても大丈夫なので色ごとにリフォーカスしない。ディザリングも少なくともRGBでは必要ないと感じる。露出時間は論点だが、長くしても歩留まりが悪いので最近は1~2分/枚が標準的。ASI1600の場合は実測から最低露出時間が10s@Gain300。
フラットは撮影終了後の薄明時間帯でのスカイフラットが多い。フラット板は使ったり使わなかったり。天頂付近が輝度の傾きが少ない。フラット画像の輝度レベルはL画像と合わせた方が良いようだが検証不十分。バイアスは現地撮影は不要。ダークはASI1600は温度制御できるので現地撮影不要。6D改は温度を合わせる意味で現地撮影の方が良いかもしれないが、露出時間の足りないダークはSNRを下げるのがネックで論点残り。PixInsightでバイアス減算した暗電流をスケーリングするのが正確か。
SWAT350系
Star71+6D改だと写野長辺5.9deg、FOVpp=3.83"。組立時のバランスは要注意、特に6Dと組み合わせる場合は赤経まわりバランスは完全には取れないので、撮影時間中の対象の移動範囲で確実に東偏荷重になるように。ウェイト代わりにPoleMasterをフォーク端部につけっぱなしにしたりする。赤緯もできるだけ完全に合わせる。電源投入は東偏荷重モード=東向きボタン押し。導入はオープンサイトか目盛環にて。導入後、赤緯のクランプは強めに締めてスリップを予防。ガイドは運用を楽にするためノータッチが多いが、オートガイドするならフォークアームに取り付けたガイド鏡+M-GENにて。
共通の注意点
撮り始めて最初のデータを必ず確認すること。(感度設定上げたまま、バーティノフマスクつけたまま。)
定期的にデータを確認すること。(フォーカスずれ、結露、電源喪失、気象条件変化、ケーブル引っ掛かり)
画像処理について
PCはCPU Intel Core i5 9500 (6コア6スレッド)、メモリ16GB。画像処理は全てPixInsightにて。
一次処理(データ整約)
画像選別 > Blinkにて目視が基本、場合によりSubframeSelectorを併用する。"Garbage in, garbage out."は真理で厳しめにはじく方が良い。
ImageCalibration > バイアス、ダーク、フラットは真面目にやるべき。バイアスはさておきダークとフラットのマスターの作り方はまだ分からないが、今のところダークはバイアス補正なし、フラットは輝度レベルをL画像と合わせた短時間露出でバイアス補正のみ。なお6Dでは、SEO改とHKIR改のキャリブレーションデータを間違えないこと、フラットのRGBレベルを SplitCFA > LinearFit > MergeCFA でレベルを揃えること。
CosmeticCorrection > ひとまずマスターダークの3σではじく。
Debayer > デフォルト
StarAlignment > デフォルト
ImageIntegration > ほぼデフォルト、Sigma clip +4σ/-3σ、場合によりClip high rangeを使う。
二次処理 前半(線形)
DynamicBackgroundExtractiion > 適当に何度かかける。
大気差の補正 > C11での撮影だと大気差を補正した方が良い。ChannelExtraction > StarAlignment > ChannelCombination
Deconvolution > PSFをDynamicPSFで撮ってからR-L法、くらいしかはっきりしていない。
色のキャリブレーション > よく分からない。STF(Auto) > HistogramTransformation とSCNRでそれっぽい感じにはなる。PCCはまだ。
二次処理 後半(非線形)
非線形化 > HistogramTransformation または MaskedStretch、背景強度20%くらい。
星消し > Starnetかけた画像をオリジナルから減算して星のみ抽出し、PixelMathで線形に落とすかHistogramTransformationで非線形に落とす。輝星を消した後にブロックパターンが残る場合は、星抽出画像からMorphologicalTransformation (Erosion + Dilation、11px角など大きめ) にて輝星マスクを生成し、星雲のみ画像・星のみ画像ともにConvolution (r=1px程度)をかける。Star71IIの輝星ハロの対症療法は、ここから星抽出画像にHistogramTransformationかけてハロの輝度を下げる。
構造強調 > MultiscaleLinearTransformation または HDRMultiscaleTransformation、PixelMathで混合することあり。
色彩強調 > ColorSaturation、場合により輝度マスクをかける。
ノイズ低減 > 低輝度部のみTGVDenoise
色の微調整 > RGB揃ってる状態からG中間調を少し落としてB中間調を少し上げるくらい。
露出時間の考え方
重要な項目にもかかわらず普段「なんとなく」で済ませてしまうところを、一度真面目に考えてみる。
1. 概論
星空は暗い。そのため撮影時間が短いと信号量が不足してザラザラした(SN比が低い)画像になってしまうので、できるだけ露出時間を長く(典型的には数十分~数時間)かける。フィルム時代はこの時間ずっとシャッターを開けていたが、デジタル化によって様相は大きく変わった。具体的には複数に分けて合計数時間の撮影を行い、得られた複数の画像をコンピュータ上で加算平均して最終的な画像を得る。こうすることで、ガイドエラーや雲の通過といった悪性イベントの影響を排除できる。
では、総露出時間は長い方が良いとして、総露出時間を一定とした場合に1枚当たりの露出時間はどう設定するのが良いか?というのが本稿の主題である。総露出時間を固定して考えると、1枚あたり露出時間を伸ばすほどSN比は高くなる。一方で、前述の悪影響が大きくなる点や、Deep Sky Objectを対象とした数秒以上の露出時間の場合は影響は小さくはあるが(とか言いながらこの問題を考えているそもそもの動機でもあるのだが)分解能が幾分低下する、というデメリットもある。従って、理想条件からのSN比の低下を許容可能なレベルにとどめつつ1枚あたり露出時間を最も短くするには?との思想で撮影条件について検討した。
2. 理論
以下の議論では、ノイズとしては光子由来のショットノイズと読出しノイズのみを考慮する。(すなわち、暗電流はランダムなノイズではなく減算で除去できる信号と考える。本当は暗電流のショットノイズはあるのだが。)また、理想条件では読出しノイズの寄与がないとする。
2-1. 理想条件のSN比
まず理想的な条件におけるSN比を求める。
S = I・T
Nideal = √S
SNRideal = S / √S = √S
ここで、S:合成画像信号量、 I:信号強度、T:総露出時間、Nideal:理想条件における全ノイズ、SNRideal:理想条件におけるSN比 である。
2-2. 現実条件のSN比
次に、現実の場合のSN比を求める。サブフレームについて
Ssub = I・Tsub
Nsub = √( Ssub + Nr^2 )
SNRsub = Ssub / Nsub = Ssub / √( Ssub + Nr^2 )
であるから、これをn枚合成した画像については
S = Ssub・n = I・T
N = Nsub・√n
SNR = S / N = SNRsub・√n
となる。ここで、Ssub:サブフレーム信号強度、Tsub:一枚あたり露出時間、Nsub:サブフレーム全ノイズ、Nr:読出しノイズ、SNRsub:サブフレームSN比、n:撮影枚数、N:合成画像全ノイズ、SNR:合成画像SN比 である。
2-3. 理想と現実のSN比の比較
理想と現実のSN比の比を p = SNR/SNRideal とおくと、
p = SNR / SNRideal = S/N / S/Nideal = Nideal / N = √S / (Nsub・√n) = √S/n / Nsub = √Ssub / Nsub
すなわち、理想条件を基準とした現実条件SNRの比は、サブフレームにおけるショットノイズと全ノイズの比に等しい。さらに進めると、
p = √Ssub / Nsub = √Ssub / √(Ssub +Nr^2)
p^2 = Ssub / (Ssub + Nr^2)
Ssub / Nr^2 = p^2 / (1-p^2)
を得る。p ( = SNR / SNRideal ) と、Ssub / Nr^2 の関係を下図に示す。
【例1】
SN比を犠牲にしても1枚あたり露出時間を短縮したい場合。サブフレーム信号強度が読出しノイズの平方と等しくなるような1枚あたり露出時間では、ショットノイズと読出しノイズの寄与が等しくなるため、全ノイズ量は読出しノイズ量の√2倍となる。そのため理想条件と比べてSN比は 1/√2 =71% に低下し、低下したSN比を総露出時間の延長で取り返そうとした場合、総露出時間を理想条件の2倍とする必要がある。
【例2】
理想条件から1割のSN比の低下にとどめたい場合、サブフレーム信号強度が読出しノイズの平方の4.26倍となるように一枚あたり露出時間をセットする。ここではショットノイズが支配的な領域に入っており、ショットノイズ量は読出しノイズ量の√4倍、全ノイズ量は読出しノイズ量の√(4+1)倍なので、理想条件と比べてSN比は √(4/5) = 89% へと低下する。低下したSN比を総露出時間の延長で取り返すなら総露出時間1.23倍相当で、通常はこのあたりが現実解と思われる。
3. 実践
前項の理論を実際の撮影にあてはめた場合について説明する。
3-1. 露出時間の求め方
ひとつの指針として前述した例1や例2に近い条件を選定することが考えられるが、具体的な1枚あたり露出時間は光学系・カメラ・フィルタ・対象天体・気象条件など諸々の影響を受ける。従って現地で簡便に露出時間を決定できる手法が望まれるところだが、現時点では下記の手法が最良と考えている。
① バイアスフレームのノイズ量を測定する。これは実質的に読出しノイズ量と考えてよい。
② 対象天体の近傍を露出時間を増加させながら撮影し、背景のノイズ量が①の1.4倍となる露出時間を求める。このとき例1の条件となっている。
③ SNRを向上させたければ、露出時間を②の数倍以上とする。4倍であれば例2の条件となっている。
3-2. 実例
2021/4/9にラッキーイメージングでM63を撮影した際のデータは下記のとおり。
機材:C11 + Reducer(F7.1) + Clear filter + ASI1600MM-cool @Gain300
Master bias frame: mean=90, MAD=12 (ADU、以下同じ)
Bias frame: mean=90, MAD=71
L frame: mean=364, MAD=190 @exp 10s, Background
ここから読み取れることは下記のとおり。
(初稿 2021/2/24、加筆 4/18)
最も根本的な話についてまとめてみる。
1. 撮像システムに求められるもの
撮像システム構築にあたって考慮すべき項目は、解像度・低ノイズ(SNR)・画角(FOV)・可搬性・価格、といったところ。可搬性と価格の制約の中で、画像の基本的なspecに直結する前三項目をどう最適化していくかが問題となる。私の主な撮影対象はdeep sky天体だが、撮像システムとしてはまずは最高解像度を狙い、そのうえでできるだけ高SNR、広FOVを目指すというのが基本的な考え方。
1-a. 解像度
解像度は大まかに言って、①回折限界、②シーイング、③サンプリング、の3要素のうち最も悪いものによって制約される。
まず、①回折限界は観測波長と望遠鏡の口径で決まり θ ≒ λ/D (λは観測波長、Dは望遠鏡口径) で与えられる。例えば可視光で口径10cmの望遠鏡なら 550nm / 100mm = 0.0000055rad = 1.1" となり、口径に比例して回折限界からの解像力は上がる。
ところが、いつもこれより悪くて実質的に制限となっているとみてよいのが②シーイングである。シーイングとは大気の揺らぎによる星像の劣化で、場所や気流の状態で刻々と変化する。瀬戸内は日本本土では最もシーイングが良い地方として知られており、実績的には平均で3"、良夜で2"くらい。deep skyを対象とした数分間の露出において2"を切ったのは一夜しか記憶がない。すなわち良夜でも前述した口径10cmの望遠鏡の回折限界の2倍ほど悪いので、アマチュアが使う「それなりの」口径の望遠鏡であれば常に①よりは②が制限になる。より正確には、得られる像は回折像とシーイングとの畳込みなので常に双方の寄与はあるが、大きい方でほぼ決まる。
では、②シーイングが2"~3"として、これを分解できるサンプリング周波数は?という問題が③である。理論上はナイキスト周波数よりも細かくサンプリングすればよいから、1ピクセルが見込む角(Field Of View per pixel, FOVpp = px/f)をシーイングサイズの半分以下に設定すればよい。ところが、シーイングサイズの半分程度の周波数でサンプリングした画像を見るとアンダーサンプリングな感あり、また惑星などを対象としたラッキーイメージングによる高解像度撮影ではFOVppが回折限界の1/3よりも細かくなるように設定するようである。このあたりの話はこちらに詳しい。ここから、シーイングが2"~3"の条件において高解像度を狙うためのシステムとしては FOVpp = 0.7"~1" に設定することが望ましい。以下補足。
1-b. 低ノイズ
次に低ノイズ化。ノイズの少なさはノイズに対する信号の比(SN比、SNR)で示される。ノイズといっても種々あるが、十分な露光量を与えると仮定すれば支配的なノイズはショットノイズとなる。ショットノイズは信号量の平方根に等しいので、この場合は SNR = S/N = S/√S = √S となる。ここで1ピクセルに与えられる信号量Sは S ∝ D^2・η・FOVpp^2・t (ηは光学系と検出器の総合効率、tは露光時間)と書けるから、SNR = √S ∝ D・FOVpp・√ηt となる。前段落の結論から FOVpp=0.7" で固定、ηもtも固定とすれば、SNR ∝ D とみてよい。要は、FOVppを固定している前提なら、ピクセル単位でのSN比は口径に比例する。
1-c. 画角
最後に画角の広さ。これは単純で、画素数をnとすれば FOV = n・FOVpp で求められる。FOVppを固定している前提なら、画素数が多い方が有利。
以上をまとめると、私が使う観測地において最高解像度を狙うには FOVpp=0.7"~1"あたりに設定することが望ましく、そのうえでできるだけ大口径の光学系と画素数の多いセンサを使うべき、となる。
2. 現状のシステムの評価と今後の展望
現状のC11 + EOS6Dの撮像システムは、半ば偶然なのだが最適な場所に近いところにいる。D=280mm、fl=2000mm、px=6.5μm、n=5500(長辺) → FOVpp=0.67"、FOV = 1°(長辺)。口径の割に安価・コンパクトな光学系と、素子サイズの割に安価な検出器、これにレデューサを組み合わせて最高解像度狙いのFOVppよりも幾分オーバーサンプリングとなる。カラーセンサであることを考慮すれば実質的に最適値に近い。
6Dに代えてASI1600を組み合わせると、写野長辺0.5°、FOVpp=0.4"でかなりオーバーサンプリング気味。
本稿はあくまでもジオメトリに基づく超概算に過ぎないが、可搬性と投資額の制約を考えれば、このFOVppを維持しつつSNRとFOVを大きく改善する選択肢は現状では35mm判モノクロカメラの採用くらいだ。モノクロカメラは各ピクセルにRGBの色フィルタがかかっていないため、カラーカメラと比較して約3倍の感度を持つ。制約がないなら山奥に小屋を建てて大口径の望遠鏡を据え付け大フォーマット冷却CCDカメラと組み合わせるが、投資額としては撮像システムだけで自動車が数台買えるくらいになるだろう。ゆえに、今後の基本方針は「C11を使い切る」になる。
C11を核としたシステムは仕様の割に安価だが、その代償として色々と運用に工夫がいる。目下最大の課題はガイドが安定しないことで、対策としてはオフアキシス化。これは何年か前に既にやっていたことなのでめどはついている。他には、鏡筒温度低下によるフォーカスの再調整など。このあたりをぼちぼち解決しつつ、35mm判モノクロ冷却カメラを導入する、くらい。できることからコツコツと。
(初稿2020/5/5、改訂12/28)